【ネタバレなし】《転生式タイムトラベルソフトウェア》としてのデトロイト【Detroit: Become Human】
これは私たちの物語
そして あなたたちの未来
クロエ(Detroit: Become Human)
『デトロイト ビカム ヒューマン(以下:『デトロイト』)』(Detroit: Become Human)は、フランスのゲーム会社クアンティック・ドリームのアクションアドベンチャーゲーム。2018年5月25日にソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)より発売。当初はPlayStation 4専用ソフトだったが、2019年春にEpic Games Store上でPC版も配信予定。(※Wikipediaより抜粋)
『デトロイト』はアンドロイドモノです。
それも王道中の王道。概念レベルで使い古されてきたプロット。
何故2018年に、本作をゲームとして繰り出したのか、結論から。
それは『デトロイト』が《転生式タイムトラベルソフトウェア》だからです。
《転生》
『デトロイト』では、《プレイヤー》が物語の主要を担う三体のアンドロイドを“操作”します。ですが、『デトロイト』で行われる“操作”は少し変わっています。
スティックを倒して歩かせる。各ボタンに対応した選択肢が出る。ここまでは他のゲームと何ら変わりません。また、アクションシーンでボタンを押せるかどうかで物語の展開が左右するQTE。これも様々なゲームに採用されています。
しかし、このQTE。『デトロイト』に採用されているのはそんなものではないのです。 物語の展開になんら関わりのない、ただそれでも入力しなければ先に進まない、そこまでする?とさえ思わせるQTEの数々。
具体例を挙げれば「しゃがむ際に下スティック入力」「箱を取る際にスティックを(キャラクターから見て)手前側に倒す」「ドアノブを回すのにスティックを回転」etc.
これらの入力は一度きり、なんて事もなく、さも当然のようにその都度要求されます。その体験は正に自分がこの手で画面上で行われている動作を行なっているよう。この細かすぎるQTEが、作品への没入感を他に類を見ないほど増幅させます。
また、没入感の増幅にはグラフィック及びモーションも一役買っています。
まず『デトロイト』のグラフィックの美しさは、ゲーム本編を一瞬でも目にすれば本能で理解できると思います。
ですがこの作品、本当に凄いのはモーションであることを特筆しておきたい。現実の人間と何ら変わりない動きや表情の数々。それには思わず「アンドロイドがいたらこんな動き方・表情・話し方なんだろうな」なんて考えてしまいます。
そう。この世に存在しないはずのアンドロイド。そんな非実在の存在を無意識レベルで感じさせる。それはまるで「そこで生きている」かのよう。
ここで話を戻しましょう。『デトロイト』では、《プレイヤー》が物語の主要を担う三体のアンドロイドを“操作”します。
これ、《プレイヤー》が各アンドロイドの命令系に成り代わっている、とは考えられないでしょうか。歩くのも、その先を左右する大事な選択も。ドアノブ1つ回すことすら《プレイヤー》による命令で実行されている。
私は思いました。「これは一種の《転生》では?」と。
《タイムトラベル》
『デトロイト』では、「アンドロイド技術が根付いた2038年」のアメリカ・デトロイトを舞台に物語が展開します。
ここで着目すべきなのが、今 つまり発売当時である2018年に 2038年を描いているという点。いつの時代にも近未来を描く作品は生まれています。しかし、そのほとんどはその時代、70年代なら70年代を、80年代なら80年代を基準に描かれており、時代を重ねるごとに古臭さも増してしまう。
それもそのはず。現実の延長線、あり得るかもしれない可能性の未来はSFの本懐でもあります。SFの王道プロットが時代に沿った作りでリマインドされ続ける、悠久のコンテンツたるが所以が正にここにあります。
『デトロイト』で描かれる2038年は、《プレイヤー》が生きる現代の延長にあることを強く感じさせます。空飛ぶ車や宇宙人の登場しない、地続きの世界。現代に寄り添った先端技術の数々には誰しもが「あり得る」と思うことでしょう。
突然ですが、皆さんはアニメ映画『この世界の片隅に』を見たことがあるでしょうか。 無ければAmazonプライム・ビデオなどでも見られるので是非。
『この世界の片隅に』は「まるでタイムトラベルのようだ」と各所で評判の作品でもあります。戦時中の描写に余念が一切なく、当時の『日常』が手に取るように分かる。それはまるでタイムトラベルして戦時中の日本を見ていたようだった……と。
見たことがないとピンと来ないかもしれません。ですがこの批評はとても的確です。綿密な時代考証に基づいて描かれる戦時中の日常は、史実の裏側を感じさせこの映画の延長に自分たちの生活があることを確信させます。
『この世界の片隅に』がフィクションを織り交ぜ我々の過去を描き、史実で真実味を持たせていたのに対し、『デトロイト』ではこれから先の未来に待つフィクションを現実に寄り添った「あり得る」可能性を、最新のグラフィック・モーションで構築している。そして、このプレイ体験は正に未来への《タイムトラベル》なのです。
《転生式タイムトラベルソフトウェア》
ここで、今まで挙げてきた《転生》《タイムトラベル》を基に『デトロイト』について再考してみましょう。
まず『デトロイト』は大前提としてゲーム、《ソフトウェア》です。そして『デトロイト』では《転生》《タイムトラベル》を用いた没入体験を提供している。ここから言えることは何か。
そう。それこそが《転生式タイムトラベルソフトウェア》です。
《プレイヤー》が《タイムトラベル》で未来のアンドロイドへアクセス、つまり《転生》して命令系に成り代わる《ソフトウェア》。これが『デトロイト』を形成する《転生式タイムトラベルソフトウェア》の正体です。
『デトロイト』では、一周目は別の選択肢を見ずに通してプレイすることが推奨されています。これは《プレイヤー》にとって唯一無二の物語を提供するため、というのが表向きの理屈です。実際、『デトロイト』は膨大な分岐によりその試みを実現しています。
しかし、《転生式タイムトラベルソフトウェア》を踏まえこうは考えられないでしょうか。「『デトロイト』とは、《プレイヤー》が《タイムトラベル》と《転生》によって訪れた未来に、無数の《プレイヤー》それぞれの多元宇宙を形成させる《ソフトウェア》である」と。
ここで冒頭の引用を思い出してほしい。
これは私たちの物語
そして あなたたちの未来
クロエ(Detroit: Become Human)
この台詞はメインメニューに現れるアンドロイドのクロエが、『デトロイト』本編を開始する際に言うものです。
「私たち」とはアンドロイドと《プレイヤー》のこと。また、多元宇宙を「物語」と形容している様子から、『デトロイト』が「あなたたち」 つまり我々人類 の「未来」であることを暗示しているのが分かります。
そして、この「未来」を左右するのが《プレイヤー》であり、それを可能にするのが《転生式タイムトラベルソフトウェア》である『デトロイト』なのです。
最後に
これだけ綿密な個人宇宙形成が『デトロイト』とPlayStation4という《タイムマシン》さえあれば可能です。まだ遊んでいない方も、あなただけの物語を作りましょう。